VRゴーグルは、2024年にApple Vision Pro, PICO 4 Ultra, Meta Quest 3Sが立て続けに発売されましたが、その後は特に大きな動きがないのが実情です。一方ARグラスと呼ばれるものは、VITURE Luma, RayNeo Air, XREAL Oneをはじめとして毎年のように後継機種が出続けている状況です。その多くはBirdbath方式と呼ばれる光学系を利用しています。この光学系は、マイクロディスプレイがグラス上部に下向きに配置され、光線は一旦下部のビームスプリッターで前面(45度)に向けて反射され、コンバイナーに照射されます。KGOnTechにBirdbath Optical Designの図がありますが、シンプルな構造で量産に向いた光学系と言えます。

ひとつ異色のARグラスをあげるとすれば、MiRZAでしょうか。このデバイスは LetinAR – PinTILTという技術 で紹介した技術を利用してNTTコノキューデバイスが開発したARグラスです。本記事では詳しく取り上げませんが、興味がありましたらこちらの動画をご覧ください。
比較的活況と言えるARグラス市場ですが、本記事では発表から少し時間がたってしまいましたが、Meta Orionを取り上げたいと思います。
Meta Orion
Meta の「Orion(オライオン)」とは、同社が開発中の次世代拡張現実(AR)グラスのプロトタイプです。2024年9月に開催された開発者会議 Meta Connect 2024 で初めて公開されました。
概要
- ARグラスとして、現実の世界の視界にデジタル情報(ウィンドウ、ホログラム、UIなど)を重ねて表示する機能を備えています
- これまでのスマートグラスとは異なり、透明レンズを通して視界を邪魔せず、高度なホログラフィックAR体験ができる次世代デバイスを目指した製品です
- コードネームは「Project Nazare」(プロジェクト・ナザレ)でした
特徴
- 視野角(Field of View):約70°と、既存の多くのARヘッドセットより広い視野を実現
- 炭化ケイ素(Silicon Carbide)レンズとマイクロLEDプロジェクターを使い、軽量かつ高画質表示を可能にしています
- カメラやセンサー、AI搭載により、ジェスチャー操作・視線操作・音声操作など複数のインタラクションが可能です
- EMGリストバンド(筋電図バンド)と呼ばれるウェアラブル機器と連携し、手や腕の微細な筋肉の動きで操作する仕組みも取り入れられています
- 本体自体はバッテリーや処理チップを搭載しつつ、補助用のワイヤレス・コンピュートパックと組み合わせて動作します
光学系概要
Orionの光学系は特殊な波導 (diffractive waveguide) を使っています。外観だけですべてを理解するのは難しいですが、まず Meta Orion AR Glasses (Pt. 1 Waveguides) を見てみましょう。特にこの図が鍵です。

Orion は、 眼鏡フレーム内に搭載されたマイクロLEDディスプレイから射出されたAR 映像を眼鏡グラス内部に入射した光として伝播させ、そこからユーザーの目へ出力する方式を採用しています。これは一般的な外部スクリーンや単純プロジェクター方式ではなく、導波路(Waveguide)+回折格子(diffraction gratings)の組み合わせです。
- 導波路(Waveguide)とは、光を内部で全反射させながら伝える透明層のこと
- 回折格子(Grating)とは、光を特定の角度へ屈折・出射させる“微細構造”で、これを使って映像光を目の方向に射出させます
Orion の光学系は、シリコンカーバイド(Silicon Carbide; SiC)製の波導材を用いているのが重要な特徴です。
Silicon Carbide(SiC)導波路が選ばれる理由
SiC という材料の高い屈折率が、Orion の光学の鍵です。世の中には樹脂やガラスの導波路もありますが、SiC は高い屈折率を持ち光をより大きな角度で屈折させられるため、約70°という広い視野角(FOV)を実現できています(一般ARグラスは 30〜50° 程度)。また、軽量でも優れた耐久性・強度を持ちます。ただし、SiC は製造コストが非常に高く良品率も低いため、大きなコスト要因になっています。
「両面に回折格子」がある珍しい導波路構造
多くの従来型AR波導は、導波路の片面に入射用・出力用の回折格子を配置します(例:HololensやMagic Leapなど)。しかしOrionでは、導波路の両面に「巨大な格子パターン」が存在し、複雑に重なっています。
従来型では、Input grating → 伝播 → Fold grating(90°曲げる)→ 伝播 → Output gratingが重複せずに並んでいますが、Orion ではそれが 少しずれて重なった複雑配置になっています。これは、
- 大きな視野角(70°)を実現するため
- 眼鏡サイズのスペースに収めるため
という目的で採用されていると考えられます。このような両面回折格子型 waveguideは製造が難しく、高価になりますが、広い視野角と大きな Eye Box (映像が見える目の位置範囲)を確保するための設計だとみられています。
本体フレームとの関係(光の入射方向)
Guttagの記事では特に興味深い指摘として、プロジェクター光が導波路の「目側ではない目とは反対側から入る構造」の可能性があると挙げています。つまり「目とは反対側 → 導波路内部 → 向きを変えて目側へ出力」という光路になっている可能性があります。Orion のフレームが厚めに見えるのは、この「裏から光を導く構造のため」では?
という推測です。
Meta CTOのコメントでも、次世代では波導の光入射側を変えて薄型化することを意図していると話されており、このあたりも将来の進化ポイントと考えられます。
色と波導数(単一 vs 複数)
一般的に大きな視野角のフルカラー波導では、RGB それぞれ別の層(波導)を使うのが普通です(例:Hololens や Magic Leap など)。しかしOrionでは、1枚のSiC waveguide上にRGBを入射・出力する設計となっていることが示唆されています。これは光学的には難易度が高く、色残像や非均一性の影響といったアーティファクトのリスクが伴いますが、設計スペースを節約できます。
以上をまとめると、Orion の光学系は「巨大視野角対応の両面回折波導(SiC素材)」という、極めて複雑かつ高精度な光学構造」を採用しています。これは同時に広視野・薄型・透明性・フルカラー表示という高度な要件を満たすための折衷設計であり、ARグラスの商用化へ向けた最前線の光学研究が詰まったものだと評価できます。
さいごに
あらためてMeta Orionの光学系を中心にレビューしてみました。根本的な原理はHololensから変わっていませんが、眼鏡のサイズに収めるために技術の粋がギュッと閉じ込められていることがわかります。
一方でもう少しカジュアルなARグラスとしてMeta Rayban Displayがあげられます。次回はこのデバイスに注目したいと思います。
