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VR研究史 ― デバイスから人間理解へ

はじめに

本サイトではこれまで、VR・AR技術の歴史について紹介してきました。

ステレオスコープやSensoramaから始まり、Ivan Sutherlandのヘッドマウントディスプレイ、VPL Research、そして現代のMeta QuestやApple Vision Proに至るまで、VR技術はハードウェアを中心に発展してきました。

しかし、VRの歴史は単なるデバイスの進化ではありません。

研究者たちは長年にわたり、

人はなぜ仮想世界を現実のように感じるのか

という問いに取り組んできました。

本記事では、VR研究がどのように発展してきたのかを振り返りながら、現代XR研究につながる主要な概念を紹介します。

※VR・AR技術そのものの歴史については「VR・ARの歴史」を参照してください。


VR研究の変化

VR研究の歴史を大まかに整理すると次のようになります。


興味深いことに、研究対象は徐々に

「機械」

から

「人間」

へと移っていきました。


1980年代 ― VRシステムの研究

1980年代のVR研究では、

  • 高性能な表示装置
  • トラッキングシステム
  • 入力デバイス
  • リアルタイムCG

などの技術開発が主なテーマでした。

当時の研究者たちは、

どうすれば仮想空間を構築できるか

を考えていました。

現在では当たり前となった頭部追跡や立体表示も、この時代に多くの基礎研究が行われています。

VR研究の中心は「システム」でした。


1990年代 ― Presence研究の登場

1990年代になると、研究者たちは別の疑問を持ち始めます。

なぜ人は仮想空間を現実のように感じるのか?

そこで注目されたのがPresenceです。

Presenceは一般に

「そこにいる感覚」

と訳されます。

実際には存在しない仮想空間であっても、利用者がその場所にいると感じる心理状態を指します。

この頃からVR研究は、コンピュータシステムだけでなく、人間の知覚や認知にも目を向けるようになりました。


2000年代 ― Immersion研究

Presence研究が進むと、

Presenceを高める要因は何か

という新しい課題が生まれました。

そこで重要になったのがImmersionです。

Immersionは没入感と訳されますが、研究上は少し異なる意味を持ちます。

一般的に、

  • Presenceは人間側の体験
  • Immersionはシステム側の特性

として区別されます。

高解像度ディスプレイや広視野角、低遅延トラッキングなどがImmersionを高める要素として研究されました。

この時代には、

良いVRとは何か

を評価するための研究も盛んになりました。


2010年代 ― Body Ownership研究

2010年代になると、研究対象はさらに身体へと広がります。

研究者たちは、

人はなぜ仮想の身体を自分の身体だと感じるのか

という問題に取り組み始めました。

この研究分野を代表する概念がBody Ownershipです。

例えばVR空間内のアバターの手が自分の動きと同期すると、多くの人はその手を自分の身体の一部であるかのように感じます。

この現象は、心理学で知られるRubber Hand Illusionとも深く関係しています。

VRは単なる映像技術ではなく、人間の身体認識そのものに影響を与える技術として理解されるようになりました。


2020年代 ― EmbodimentとSpatial Computing

近年のXR研究ではEmbodimentが重要なテーマとなっています。

Embodimentは身体化とも訳され、

人が仮想身体を通じて世界を経験すること

を指します。

ここでは単にアバターを所有するだけではなく、

  • 身体感覚
  • 行動
  • 社会的相互作用
  • 認知

まで含めて研究対象となります。

また近年はSpatial Computingという考え方も広がっています。

これはコンピュータを画面の中に閉じ込めるのではなく、現実空間そのものに統合しようという考え方です。

VR研究はもはや映像表示技術ではなく、人間とコンピュータの新しい関係を探る学問へと発展しています。


デバイスから人間理解へ

VR研究の歴史を振り返ると、研究対象は次第に変化してきました。

時代主な研究対象
1980年代システム
1990年代Presence
2000年代Immersion
2010年代Body Ownership
2020年代Embodiment・Spatial Computing

VR研究は、

より高性能な装置を作る研究

から、

人間がどのように世界を知覚し、身体を認識するのかを理解する研究

へと発展してきたのです。


おわりに

VR・AR技術の歴史は、デバイスやコンピュータ技術の進歩によって支えられてきました。

しかしその一方で、研究者たちは長年にわたり、

人はなぜ仮想世界を現実のように感じるのか

という問いに挑み続けてきました。

Presence、Immersion、Body Ownership、Embodimentは、その探究の過程で生まれた重要な概念です。

VR研究の歴史とは、単なる技術史ではなく、人間そのものを理解しようとする研究の歴史でもあるのです。



   
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