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VR・AR機器の構造 その1 – VR機器の着目ポイント

VR・AR機器の構造について、実際の機器の中身を見ながら理解を深めていきたいと思いますが、第1回の今回は、ディスプレイ、レンズ、レンズ位置調整機構、視力 / 眼鏡対応、トラッキング機構、ヘッドバンド、近接センサー、視線トラッキングのための機構と言ったVR機器の着目ポイントを押さえていきます。

はじめに

VR・AR機器の構造について、実際の機器の中身を見ながら理解を深めていきたいと思いますが、各機器の詳細に入る前に、まずVR機器の着目ポイントを押さえておきましょう。


ここでは以下に注目していきます :

  • ディスプレイ – 1枚 or 2枚
  • レンズ – ノーマルレンズ or フレネルレンズ
  • IPD調整
  • 視力調整機構 – レンズとディスプレイの位置関係(距離)
  • 眼鏡対応
  • トラッキング機構 – Outside-In or Inside-Out
  • ヘッドバンド – 着脱の容易性、バランス、装着感
  • 近接センサー
  • 視線トラッキングのための機構

それでは基本事項の詳細に入っていきます。

押さえておきたいVR機器の基本事項

レンズ


まずレンズですが、一般的な凸レンズに対して、HMDでよく利用されているのがフレネルレンズです。薄くて軽く、材料費も少なくて済むという利点があります。

フレネルレンズはフランス人物理学者のオーギュスタン・ジャン・フレネルにより1822年に考案されたもので、厚い凸レンズと同等の屈折効果をドーナツ型のプリズム状のレンズを並べることによ実現したもので、灯台で広く利用されるものです。

こちらの記事で概要を確認しておきましょう :

すべてのVR機器のレンズがフレネルレンズであるわけではありませんが、ここではまずフレネルレンズを覚えておいてください。

フレネルレンズにはゴッドレイという問題があるのですが、その問題を軽減するために、たとえばレンズ中心を通常のレンズ形状にし、周辺部をフレネルレンズにすることによって、ゴッドレイの影響を軽減しつつレンズ厚みを薄く保つようなハイブリッドレンズの特許が出ています。

そしてValve Indexのレンズを見ると、依然としてフレネルレンズベースではあるのですが、溝が細かく薄くなり、その進化を感じますね。

一方でVRヘッドセットの薄型化もいよいよ始まってきましたね。発売間近のMeta Quest Proは呼称Pancakeレンズという偏光レンズを搭載し、光路をレンズ内部で稼ぐことによってレンズとディスプレイの間の距離の短縮化を実現したようです。マルチレンズアレーと比べるとまだ物理的な距離は必要と思われますが、解像度の低下を起こさずに安全にある程度の短縮化ができる手段を今回は選択したということでしょうか。もちろんIPD調整を行う前提だと思いますが、調整を行わずに斜めから覗き込んだ場合にところどころ画像が滲んだりしないか気になるところではあります。

IPD調整


いきなりIPDという言葉が出てきましたが、IPDというのはInterpupilary Distanceすなわち瞳孔間距離のことです。人によって違うもので、めがねでももちろんそうですが(瞳孔間距離(PD)ってなに?測定方法と合わせて紹介)、VR機器におけるステレオ立体視の重要なファクターです。

こちらの論文 Variation and extrema of human interpupillary distance” にその分布が例示されていますが、成人男性の平均は約64mm、成人女性の平均は約62mmです。2mmの違いはそれほど大きくないとも言えますが、例えばIPD=63mmで画作りをしたとして、分布の端っこの人は±5mmずれた位置からレンズを覗くことになりますので、画の端が見切れたり、意図したステレオ立体視と微妙に違う画が視覚認識されることになり、不快感の原因にも挙げられます。

こちらの記事(HMDの瞳孔間距離不整合による世界変形)で詳しく触れられていますが、正しい立体視を再現するためには、

  • IPDに応じたレンズ配置(レンズ間距離をIPDに合わせる)
  • ディスプレイ上に表示される双眼画の配置(レンズの正面に表示する)
  • IPDに応じた双眼画の生成(双眼のゲームカメラ距離をIPDに合わせる)

この3つがすべて満たされる必要があります。レンズやディスプレイ配置は、映像の見やすさに直結します。また、IPDが間違った双眼画というのは、極端な例で言えば、双眼用ゲームカメラ間距離をとても大きくして画作りすると自分が巨人になったような立体感に、逆にとても小さくすると自分が小人になったような立体感になるわけです。

したがって、この3つの条件がすべて満たされることが理想なわけですが、実際にはコストとのバランスで一部しか満たされていないVR機器もあります。このあたりに注意しながら、このあと実際の機器の構造を見て行きましょう。

視力/眼鏡対応


ピント調節あるいは焦点距離調節と言われることが多いですが、視力対応というのは、レンズとディスプレイの間の距離が調整できることを指します。

こちら(凸レンズの公式の導出(2)-虚像)の図を見てみましょう。図では距離aのところに物体ABがありますが、VR機器で言うとこれがディスプレイにあたります。そしてレンズの右側から覗くと、ディスプレイの正立虚像が距離bの物体A’B’のあるところに見えることになります。焦点距離をfとすると、以下の式が成立します。

\frac{1}{f} = \frac{1}{a} - \frac{1}{b} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ (f>0, a>0, b>0)

a > fとなるとb < 0となってしまい、虚像が見えなくなります(実像が目のある側にできます)。なので、レンズとディスプレイの距離aは焦点距離fよりも大きくならないように、リミッターがかかっているのが普通です。

ではここで、レンズとディスプレイの距離を狭めてみましょう。つまりaを小さくするので、1/aは大きくなりますね。1/fは一定ですから、1/bも大きくなることになります。つまりbは小さくなるので、ディスプレイを近づけるとその虚像の位置も近づくことになります。

一般的なVR機器では、この虚像がだいたい2mの距離にできるように設計されていることが多いです。 たとえばf = 7.25cm, a = 7cmのとき、b=2mになりますね。

ではここで、レンズとディスプレイを近づけてみましょう。

たとえばa=6.75cmにすると、b=97.88cmとなります。つまり、レンズとディスプレイの距離を2.5mm近づけると、虚像の位置は2mから約1mのところにまで近づきます。すると、2mの距離だと近視でぼやけて見えなかったものが1mに近づくので見えるようになる、というわけです。面白いですね !

スマートフォンを刺すタイプの安い価格帯のVR機器ではこの機能に対応しているものをよく見かけます。逆に、ハイエンドなものでは対応していないものも多くあり、その代わりに眼鏡をしたままHMDを装着できるタイプの機器もあります。

目とレンズの間の距離/空間を広げることにより、眼鏡を装着したままでも快適にVR映像を見ることができるようになります。PS VRやHTC Vive ProのようにHMDを前後に動かせるタイプと、Oculus RiftやQuestのようにオプションでスペーサーをかますタイプがあります。

こんなところにも気を付けながら見ていきましょう。

LEDとカメラ

LEDおよびカメラですが、これはトラッキング方式に直結する話しになります。HMDのトラッキング方式には大きくInside-Out方式とOutside-In方式があります。

Outside-InとInside-Out その1 に書きましたが、Outside-Inというのは、PS VRや初代Oculus Riftのように、HMD側に発光体があって外界に設置されたカメラによって発光体の位置を検出しHMDの位置や姿勢をトラッキングする方式です。HTC ViveやVive Proは少し特殊で、外界に発光体があってHMD上のフォトディテクターで検出する方式になりますが、広義にOutside-Inに括られることが多いようです。

Outside-InとInside-Out その2 に書きましたが、一方Inside-Outというのは、Oculus QuestやHTC Vive Cosmosのように、HMD側に複数台のカメラが搭載され、映された外界の映像の特徴点の動きからHMDの動き(位置と姿勢)を推定トラッキングする方式を言います。外界にカメラの設置が不要なため、空間的な制約が事実上なく、またコストダウンにもつながる方式ですが、トラッキング精度としては今のところOutside-In方式の方が優れている状況です。

Outside-Inでは、どのようなカメラでどのような光源をトラッキングするのかに注目しましょう。またInside-Outでは、HMD上のカメラ配置とControllerの関係にも注目してみましょう。

ヘッドバンド


ヘッドバンドもHMDの快適な装着のための重要なファクターです。

大きくは、初代Oculus Riftのようなシンプルなバンドで頭に固定する方式と、PS VRで採用されているばね機構の入ったメカ的なヘッドバンドで締め付けて頭に固定する方式があります。後者の方が長時間装着には向いていると考えられますが、メカ部品も多くコストがかさむので、トータルシステムとしてどこにお金をかけるかトレードオフになります。

最近の傾向としては、高い価格帯の機器では後者が増えつつあるように見受けられます。HTC Vive CosmosやOculus Rift Sでも類似のヘッドバンドが採用されています。最近ではエレコムやレノボでも一部の機器で採用されはじめましたね。こちらの記事(イチオシはどれ? MRヘッドセットをかけ比べて比較してみた)を見ると、MRヘッドセットと呼ばれる機器でも多く採用されているようです。

こちらの記事(「Oculus Go」に見る“みんなのVR”時代。VRで実現するパーソナルごろ寝シアター)は、まさにこのふたつのタイプのヘッドバンドを比較している興味深い記事です。両者の良さを理解し、どうあるべきかを考えたいですね。

ちなみにグッディーは、頭頂部で支えないで欲しいと思うことしきり(あくまでも個人的な意見です)。頭頂部を支えることが装着安定感のための一番の手法であることはわかるのだけど、頭頂部はセンシティブな場所だなと思ったり。まあ現状のHMDの重量では致しかたないところではあるとも思うし、最終的には眼鏡のような手軽さがターゲットだとは思っていますが。

近接センサー


英語ではProximity sensorと言います。スマートフォンにも搭載されていますが、知らないで使っている人もいるようですね。

VR・AR機器の場合は、普通は目と目の間の上部、丁度眉間の部分を見るように装備され、ユーザーがHMDを被っているか否かを検出するものです。

用途としては、PS VRでは、ユーザーがHMDを装着していないときはゲームが進まないように、HMDを外したらゲームをサスペンドしてシステムソフトウェアに移行するような処理が入っていますね。スタンドアローン型だと、ユーザーがHMDを外したらディスプレイをOFFにするなど、省電力にも効果的です。

このあと実際の機器でセンサー配置を確認しましょう。

視線トラッキング


最後は視線トラッキングです。現状はサポートしているVR機器の方が少ないかも知れませんが、AR機器では搭載されているものも多いですね。視線トラッキングの用途についてはこちらの動画(世界初の視線追跡型HMD、FOVEについて金子氏のプレゼン)がわかりやすいでしょう。この技術は、ディスプレイの高解像度化にともなって将来必須になるかも知れない技術なので、触れておきたいと思います。

視線トラッキングには様々な方式がありますが、HMDではレンズの周囲に赤外線LEDを6個とか8個とか配置してその角膜反射を赤外線カメラで検出して視線を推定する方法が主流です。角膜反射はたとえばこの動画が参考になります。

目が動くと角膜反射点の位置も動くので視線が推定できるわけですが、一般にキャリブレーションが必要で、しかもHMDを脱着するたびに再度キャリブレーションが必要になるのが普通なので、わずらわしい部分はあります。

視線トラッキングはグラフィックスレンダリングと密接な関係があり、レンダリングの回に改めて触れる予定ですが、ここでは赤外線LEDの配置に注意するとともにカメラの配置にも注意してみましょう。

LEDとカメラが外から確認できる場合も多いですが、FOVEやHTC Vive Pro Eyeのように、レンズの周囲にLEDは確認できますが、カメラが見あたらない場合もあります。角膜反射点はできれば目を正面から見た画像で検出したいので、カメラはレンズの向こう側に偏光ミラー越しに配置されている場合もあります。こうすると目を真正面から観測できますが、コストアップが代償になります。

この記事(VRヘッドセットに視線追跡を可能にするセンサーを取り付ける3つのアプローチ)が参考になるでしょう。

おわりに

ということで、今回はVR・AR機器の構造の着目ポイントを押さえてみました。結構おもしろかったでしょ !?

このポイントをベースに、次回は実際の機器の中身を見ながら理解を深めていきましょう。機器の中身は、修理の記事で有名な iFixitのTeardownサイトで確認していきます。

それではまたお会いしましょう。


   
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