2022年から2024年前半は、PICO 4, Meta Quest Pro, PS VR2, Meta Quest 3, Apple Vision Proといった華やかなVR機器が発売され、VR業界は話題が豊富でした。そしていくつかの進化がありました。
まずひとつ目は、パンケーキレンズによる薄型化の流れです。前記のVR機器のうちフレネルレンズを搭載したのはPS VR2のみで、それ以外の機種はすべてパンケーキレンズを採用しています。
ふたつ目は、視線トラッキングの採用です。ディスプレイの高解像度化にともなって高まるグラフィックスの演算付加軽減のために導入されるDynamic Feveated Renderingに必須の技術で、Meta Quest 3以外の機種に導入されています。PICO 4はハイエンド機種であるPICO 4 Pro / Enterpriseに搭載されていますね。一般的にはアバターの視線の動きに反映させたりすることにも適用されていますが、Apple Vision Proでは視線入力も導入されて、先進的な使用感が実現されています。
最後が、MRへのアプローチです。Meta Quest 3とApple Vision Proでは、ヘッドセット前面に2基のRGBカメラに加えて深度センサーが搭載されました。Video Pass Throughによってカラー映像で現実世界が表示され、深度センサーによって空間認識が行われる上に、空間形状に則したARオブジェクトが描画されてMRの世界が表現され、空間コンピューティングという世界観が実現されています。
このような進化は、VR機器を楽しむユーザーにとってはまさに現実感や臨場感が高まる体験が可能になってきたと言えますが、それと同時にVR機器の価格の上昇も招く結果にはなっていました。
そのような市場の状況の中、2024年後半に出てきたVR機器として、ここではPICO 4 UltraとMeta Quest 3Sを紹介します。発売日としては後発となりますが、まずMeta Quest 3Sから。
Meta Quest 3S
2024年10月15日発売のMeta Quest 3Sです。Meta Connect 2024でZukerbergさんが発表された動画を見てみましょう。
128GBのモデルで比較すると、Meta Quest 3が$499に対してQuest 3Sは$299ということで、廉価版という位置づけのモデルです。デバイスの比較についてはこのページ(Meta Questを比較する)をご参照ください。
ここで一番目を引くのは、Quest 3Sのフレネルレンズの採用でしょう。さきほどの動画の中でもZukerbergさんが言っていますが、どうしても$200台のVR機器を出したかったという強い意志がうかがえます。そのためにディスプレイの解像度や視野角そしてレンズと、映像系全体のクオリティを下げた廉価版を作ったということですね。
一方でVideo Pass Through用のRGBカメラは維持されていますので、現実世界はQuest 3と同等のフルカラーとなり、MR体験への入門編としての位置づけが強く感じられます。ただし、深度センサーは搭載されていないようなので、正確な空間認識が要求されないレベルの空間コンピューティングが可能ということなのでしょう。
では前面に左右みっつずつ見えるものは何なのでしょう ? ひとつはRGBカメラ、もうひとつはIRカメラですね。では最後のひとつはというと、Flood IR illuminatorということで、赤外光を照射する光源のようです。つまり暗い環境でもトラッキングできるためのしくみですね。
その効果はなかなかわかりにくいものもあるようなのですが、ひとまず赤外光の照射がよくわかる動画があるので、見てみましょう。
ではその恩恵はどの程度なのか、というのが気になりますが、実際にはQuest 3とあまり変わらない、というのが実情のようです。こちらのレポートをご参照ください。(Meta Quest 3Sは「暗い場所でのトラッキング」に強い? 海外メディアが検証結果を報告していたので、日本でも試してみた)
分解記事も出てますので、興味のある方はどうぞ:
- Meta’s Quest 3S Is Just a Revamped Quest 2, and It’s the Better for It
- Meta Quest 3S: The TRUTH About Its Upgrades
PICO4 Ultra
そして2024年9月20日発売のPICO4 Ultraです。PICO XRの動画を見てみましょう。
これを見るとまさに、PICO 4でMR対応しました、というコンセプトであることがわかります。スペックを見ると(PICO4 Ultra)2基のRGBカメラと1基のiTOF深度センサーが追加されています。これによりカラー映像によるPass Throughに加えて空間認識が可能となり、精度の高い空間コンピューティングが実現されていると考えられます。
価格帯からしてもMeta Quest 3の競合機種という位置づけになり、MR対応のVR機器として各社出そろってきた様相です。逆に言うと、それ以上の特徴がないのか… ?
いえ、PICOと言えばByteDance、そしてByteDanceと言えばTikTok。そう、PICO4 Ultraで撮影した空間ビデオをそのままTikTokでシェアすることができるというプラス1の機能があります。空間写真や空間ビデオが一般に認知され広がっていく助けになること間違いなしですね。
さて、さらにプラスの機能としてご紹介したいのが、PICO Motion Trackerです!仕様を見てみると、
- 加速度計
- ジャイロスコープ
- 地磁気センサー
- アクティブ赤外線センサー
と書かれており、「IMUセンサーと12個の赤外線センサーを組み合わせて、最大200Hzの周波数で6DoFトラッキングを実現します。」とありますね。

トラッカー自体のトラッキング精度はかなりよさそうですが、最大装着数でも腰1基と足首2基と数が少ないですから、ここからIK (Inverse Kinematics) を駆使して全身(特に下半身)の各関節の動きを推定することになり、完璧とは言えずとも一定レベルのフルボディトラッキングを実現していると言えるかと思います。
このあたりはいくつも記事や動画があがっていますので、探してみてください:
さいごに
ということで、2024年後半に出てきたVRゴーグル2機種についてご紹介しました。
Apple Vision Proが出てきてMRあるいは空間コンピューティングへのシフトが加速された感があります。そして左右両眼のRGBカメラによるVideo See Through (Pass Through) ができるようになると、空間写真や空間ビデオの撮影が簡単にできるようになりますから、そのままシェアも可能になるわけですね。
最近あまり大きなムーブメントがないと思いがちなVR市場ですが、それはハードウェア的な面を見た場合であって、実は水面下でさまざまな挑戦や開拓が特にソフトウェア的なアプローチで行われているように感じます。
Metaが引き続き頑張っているメタバースの世界 Meta Horizen Worlds がどうなるのかは正直わかりませんが、空間ビデオのSNSでの共有はVR市場の拡大の可能性を強く秘めていますし、イマーシブビデオ市場の出現がカメラ側の進化を後押ししている面が少なからずあるように思います。
この状況がたとえばCanonの最近の活動につながっていたりするわけで、VR市場は生き物のようにその様相を変えながら、世の中の歩調に合わせて進化し続けていると言えるでしょう。