VR

VR・AR体験の臨場感向上へのアプローチ その1 – 臨場感とは

これから数回にわたってVR・AR体験の臨場感向上へのアプローチについて勉強していきます。今回はその第1回ということで、臨場感の構成要素について考え、臨場感を定量評価する指標としてPresence Questionnaire (PQ)を紹介します。それでは始めましょう !

はじめに ~ 臨場感とは

臨場感は英語では Presence とか Realism などと訳されます。「まるでそこにある/いるかのようなリアルな感覚」ということですね。

類似の言葉に、没入感 (immersion)、現実感 (Reality) 、存在感 (Presence) などがあげられます。また関与性の表現としてInvolvementやEngagementといった言葉が用いられ、深く関与できたことをInvolvedやEngagedと表現されたりします。

それぞれ違った意味を持ちますが、その行きつく先にあるものは、知覚されているものが作り物(バーチャル)であるにも関わらず、まるで本物(リアル)のように感じられ、それらに囲まれ相互作用(インタラクション)を持つことによってあたかも現実の出来事のように感じられる体験です。

逆に「臨場感を損なう」という言葉があります。いくらグラフィックスやサウンドのクオリティを高めて現実と見まごうレベルに達していたとしても、たとえば操作性が悪くて一向にテーブルの上のコップを掴むことができなかったとすれば、それは一気に臨場感を失います。

そういう意味で、バランスの取れた臨場感の提供のアプローチが重要になります。では臨場感の構成要素とは何でしょう ?

臨場感の構成要素


NICTの安藤先生の素晴らしい図があります。「バーチャルリアリティ学」にも書かれているものですが、NICTの研究紹介の記事等(超臨場感コミュニケーション技術小特集 9.高臨場感映像の心理・脳活動…)でも見ることができます。以下に引用させて頂きます。

臨場感の構成要素として、空間要素、時間要素、身体要素の3つを提起しています。

空間要素は立体感・質感・包囲感、時間要素は動感・因果感・同時感、身体要素は自己存在感・インタラクティブ感・情感から構成され、これらは各感覚器で統合的に感受する外的要因と、過去の経験や記憶などから想起される内的要因が作用した結果生まれる感覚であるというものです。非常にわかりやすく、また合点が行く内容だと思います。

たとえばJob SimulatorというVRゲームがあります。Office Workerの動画を見てみましょう。


このゲームは事務仕事やコンビニ店員などを疑似体験できるシミュレーターですが、このゲームの臨場感を向上するのに何が効果的か考えてみましょう。

まず手での操作が大変多いので、インタラクティブ感やリアルタイム感と言った操作性が作用するものが重要となりそうです。また質感や触感のフィードバックが臨場感を高めるのに効果的と考えられます。

食べ物や飲み物がよく出て来ますので、香りによる包囲感や空気感の向上が期待できるとともに、空腹感や食欲すなわち自己存在感や情感にも強く作用すると考えられますね。

風や湿気・熱気なども空気感の向上が期待できますし、タイミングを合わせることによる同時感やインタラクティブ感への作用ももちろん臨場感向上に効果的と考えられます。

あげ始めたらきりがありませんが、最初にも言ったとおり、操作性の悪さによって臨場感を損なうというのはよくある話しなので、まずそこを押さえた上でさらなる向上を考えて行きたいところです。となると臨場感を定量的に計測できるとよいですよね。その指標のひとつを次に紹介します。

臨場感の評価指標

映像酔いの評価指標として、Simulator Sickness Questionnaire (SSQ) というものがあるのは知っている人もいるのではないでしょうか ? SSQはKennedyらによって提案された映像酔いの評価指標ですが、VR酔いの評価指標としても用いられており、VR体験をしたあとにめまいや吐き気などいくつかの項目についてそのレベルをアンケート形式で答えることによって、酔い度を算出するものです。

同様に臨場感を評価する指標もあります。Witmer, Singerの1998年の論文 Measuring Presence in Virtual Environments: A Presence Questionnaire で提案されたPresence Questionnaire (PQ)です。当初は32項目で構成されていましたが、Witmer, Jerome, Singerの2005年の論文 The Factor Structure of the Presence Questionnaire で内容が再構成され、以下の29項目となりました。

Presence/Presence Questionnaire (PQ) からの引用の翻訳)

1.1 Involvement – 関与性
1. イベントをコントロールできましたか ?
2. あなたのアクションに対してバーチャル環境は反応が良かったですか ?
3. あなたとバーチャル環境間でのインタラクションは自然でしたか ?
4. バーチャル環境の視覚面にあなたは夢中になれましたか ?
5. バーチャル環境内で動きをコントロールするメカニズムは自然でしたか ?
6. バーチャル空間内でのオブジェクトの動き感は間違いのないものでしたか ?
7. バーチャル環境での体験は実世界での体験と矛盾のないものでしたか ?
8. 視覚によってバーチャル環境内で能動的に何かを観察したり探すことができましたか ?
9. バーチャル環境内で違和感なく動き回ることができましたか ?
10. バーチャル環境内でうまくオブジェクトを動かしたり操作することができましたか ?
11. バーチャル環境での体験に熱中できましたか ?
12. オブジェクトに触れたり地面を歩いたり壁やオブジェクトに衝突したりといった物理的なインタラクションを通じてそのオブジェクトを特定することは簡単でしたか ?

1.2 Sensory Fidelity – 迫真性
13. バーチャル環境の音声面は感覚的に受け入れられるものでしたか ?
14. 何の音か特定できましたか ?
15. どこからする音か特定できましたか ?
16. 触れることによってバーチャル環境内で能動的に何かを観察したり探すことができましたか ?
17. 間近でオブジェクトを観察できましたか ?
18. いろいろな方向からオブジェクトを観察できましたか ?

1.3 Adaptation/Immersion – 適応性/没入性
19. あなたが行ったアクションに対する反応として次に何が起こるか予想できましたか ?
20. バーチャル環境での体験にすぐに慣れましたか ?
21. バーチャル環境の中で動いたりインタラクションを行うことについて体験の最後に上達したと感じましたか ?
22. 指示されたタスクや必要な作業を行うに際し遂行するためのメカニズムではなく作業そのものに集中できましたか ?
23. このバーチャル体験に没入できましたか ?
24. バーチャル環境での体験の中でタスクや環境に完璧に集中できる瞬間がありましたか ?
25. バーチャル環境でインタラクションするためのコントローラーの操作にはすぐに慣れましたか ?
26. バーチャル環境で異なる知覚器(視覚、聴覚、触覚)を通して感じる情報に矛盾はありませんでしたか ?

1.4 Interface Quality – インターフェイス品質
27. あなたのアクションとその結果の間に遅延はありませんでしたか ?
28. 指示されたタスクや必要な作業を行う際に視覚情報の表示品質の悪さが作業を妨害したり混乱を招くことはありませんでしたか ?
29. 指示されたタスクや必要な作業を行う際にコントローラーの操作性の悪さが作業効率を阻害することはありませんでしたか ?

大項目としては、関与性、迫真性、適応性/没入性、インターフェイス品質の4つからなり、体験の印象についてそのレベルをアンケート形式で答えることによって、総合的にインタラクティブ性能を測るものになっています。読んでみると結構おもしろく、またよくできていると感じませんでしたか ?

SSQもPQも研究者に広く使用されているツールです。例えばVR酔い対策としていくつかの操作手法を提案する場合に、共通のアプリケーションでそれぞれの手法で操作してみて、SSQによる酔い度の比較とPQによる臨場感の比較を行い、酔い度は軽減されたけど臨場感は劣化していない、などの評価を行うわけです。

ここでは以上に留めますが、上記の翻訳は自然な日本語を意識して意訳している部分があるので、興味があれば是非PQの原文や論文を読んで各項目の詳細について理解を深めてください。

おわりに

今回は臨場感向上へのアプローチの第1回ということで、臨場感の構成要素について考え、臨場感を定量評価する指標としてPresence Questionnaire (PQ)を紹介しました。内容の細部に触れるにつけどちらも大変よく考えられているものだと感じますし、過去の経験や記憶といった内的要因の重要性についてあらためて考えさせられました。

ただし何度も言いますが、現行のVR機器においてはその操作性の悪さによって臨場感を損なうことはままあるので、まず操作性のクオリティを確保した上でさらなる臨場感の向上を考えて行きたいところです。

次回ですが、冒頭でも言ったとおり臨場感は人間のすべての知覚と密接に関係します。とくにここでは代表的な知覚である視覚、聴覚、前庭感覚、嗅覚のしくみについて少し深く勉強しながら、臨場感向上へのアプローチについて理解を深めて行きたいと思います。

次回はまず視覚から見て行きます。お楽しみに !


   
関連記事
  • VR・ARをささえる技術
  • VR・AR機器の構造 その2 – 実際のVR機器を見てみよう !
  • VR機器のグラフィックス その3
  • VR・AR技術の適用事例
  • VR機器のグラフィックス その2
  • VR・AR機器の構造 その1 – VR機器の着目ポイント

    コメントを残す

    *

    CAPTCHA