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VR・AR機器の構造 その2 – 実際のVR機器を見てみよう !

VR・AR機器の構造について、第2回の今回は、実際の機器の中身を見ながら理解を深めていきます。代表的なVR機器として、PS VR, HTC Vive (Pro), HTC Vive Cosmos, Oculus Rift (S), Oculus Questを見ていきます。

なお、2021年以降パンケーキレンズ搭載の薄型VR機器がいくつも出てきていますが、2021年後半から2023年前半に出てきたVR HMDたちMeta Quest 3とApple Vision Pro で紹介していますので、あわせてご覧ください。

はじめに

前回は、以下に示すようなVR・AR機器の構造の着目ポイントについて説明しました。

  • レンズ
  • IPD調整
  • 視力/眼鏡対応
  • LEDとカメラ
  • ヘッドバンド
  • 近接センサー
  • 視線トラッキング

このポイントをベースに、以下の項目に注意しながら、

  • ディスプレイ – 1枚 or 2枚
  • レンズ – ノーマルレンズ or フレネルレンズ
  • IPD調整 – メカ調整 and/or ソフトウェア調整
  • 視力調整機構 – レンズとディスプレイの位置関係(距離)
  • 眼鏡対応 – メカ対応 or スペーサー対応
  • トラッキング機構 – Outside-In or Inside-Out
  • ヘッドバンド – 着脱の容易性、バランス、装着感
  • 近接センサー
  • 視線トラッキングのための機構

今回は実際の機器の中身を見ながら理解を深めていきましょう。機器の中身は、修理の記事で有名な iFixitのTeardownサイトで確認していきます。

それではVR機器から見て行きましょう。

代表的なVR機器の構造

PS VR


PlayStation VR Teardownに分解のようすが詳しく書かれていますので、まずざっと見てみましょう。

Step 1の写真にあるとおり、PS VRは青く光ります。この可視光をステレオカメラであるPS Cameraで撮影し、HMDの位置や姿勢を推定します。つまり、Outside-In方式ですね。

分解写真を見ると、やはり目を惹くのは凝ったメカ構造です。Step 15~17にありますが、特にヘッドバンドは人間工学的にバランスの取れた構造で、バネ機構の入ったヘッドバンドを開いて頭に装着し、ダイヤルで締め上げるような優れたメカ構造です。

また、Step 7のビデオにあるとおり、HMD部分が前後にスライドしますが、これにより目とレンズの間の空間が広がり、眼鏡を装着したまま使用できます。逆に言うと、レンズとディスプレイが一体となってスライドしますので、視力対応はありません。

Step 9に見られる近接センサーは、眉間のあたりを監視するようになっており、セオリー通りの設置ですね。

Step 11, 12にあるとおり、1枚ディスプレイでレンズ位置も固定されていますのでIPD調整はできません。ソフトウェア対応のみになります。(PS4のシステムソフトウェアにIPD測定アプリがあり、そこで計測されたIPDの値にもとづいて双眼画が作られます)

レンズの写真がStep 14にありますが、フレネルレンズではなく分厚いノーマルレンズですね。PS VRではIPD調整機構がないので、IPDが広い人や狭い人はレンズ中心よりも若干ずれた位置からレンズ越しにディスプレイを見ることになり、フレネルレンズの弱点の影響を受けやすくなりますが、これを嫌った選択かも知れません。こちらの記事(Vive Pro 非フネレルレンズに変更)とそこで引用されているYouTube動画はなかなか興味深い内容です。

1枚ディスプレイでレンズ位置も固定、ソフトウェアによるIPD調整はあり、ノーマルレンズを採用と、コストとクオリティの落としどころの戦略が垣間見られますね。

HTC Vive


まずHTC Vive Teardownを眺めましょう。

やはり特徴的なのはHMDの表面に散りばめられた32個のフォトダイオードですね。これについてはトラッキングの回で深く触れますが、Viveではベースステーション(通称Lighthouse)と呼ばれる外界に設置する側のデバイスが発光し、HMD側でその光を検出する方式のためにこのような構造になっています。

外部デバイスが必要という意味で、Outside-In方式の一種と言えます。

Step 7にあるように、ひとつひとつのフォトダイオードに基板が設置され、結構な量の部品がマウントされていますね。また、Step6の写真から、それぞれのフォトダイオードの前面にIRフィルターが配置され、HMDのシェルに一体化されているのがわかります。手が込んでいてリッチなつくりと言えます。

Step 8の写真から、フォトダイオードとともにHMD前面には単眼カメラがあり、現実世界を把握できることがわかります。

Step 4のダイアルがHMDの左側面にあって、回転させることによってHMDの前面部分を前後にスライドできます。Step 5の写真で言うと下のブロックがスライドしますので、レンズとディスプレイがいっしょにスライドすることになります。PS VRと同様ですね。

Step 14にあるとおり、ディスプレイは2枚でそれぞれレンズと一体の箱型になっています。つまり視力対応はありません。

Step 13から、レンズとディスプレイが一体になったふたつの箱は、その間の距離をねじを回すことによって変えられるようになっており、IPD調整ができます。

このあたりのメカ的な動きについては、冒頭のビデオが大変わかりやすいので、是非見ておいて下さい。

また、レンズはくっきりと縞模様の入ったフレネルレンズであることがStep 15の写真からわかります。

もう少しあげると、Step 1や2にあるように、デフォルトのヘッドバンドは比較的柔らかい素材のシンプルな構造で、ケーブルが煩雑な感じはありました。

HTC Vive Pro


こちらもまずHTC Vive Pro Teardownを眺めてみましょう。

ビデオのサムネイル画像を見ると、32個のフォトダイオードが健在であることがわかりますが、Viveでは基板が多く見られましたが一掃されているのがわかります。

またStep 12の写真から、ディスプレイやレンズまわりの構造は変わっていなくて、ねじでIPD調整ができます。一見してわかるフレネルレンズも健在です。

Step 9の下側のブロック(HMDの前面部)がスライドできるのも変わっていませんが、Viveではダイアル式でしたが、Vive ProではHMDの左下にボタンがあって、押しながらスライドさせるシンプルな構造になりました。

またStep 3にあるように、ケーブルもシンプルになりました。

Step 1の3枚目の写真を見ると、側頭側のヘッドバンドは比較的固い素材になり、後頭部のダイヤルで締める形になりました。PS VRと類似の方式と言えます。

あと、HMD前面にあるカメラが単眼から双眼になりましたね。

Viveから大きく変わった点はありませんが、いろいろ改善されていることがわかります。

また、Steam系列で同様にベースステーションを利用したシステムであるValve Indexも面白いので、レビュー記事(Valve Indexレビュー)など目をとおされると良いでしょう。特にコントローラーが興味深いので、コントローラーの回で取り上げる予定です。

HTC Vive Cosmos

残念ながらTeardown記事はないのですが、こちらの記事(「HTC VIVE Cosmos」をレビュー。…)に機能がよくまとめられているので、こちらを見てみましょう。

何はさておき、この機種の売りはInside-Out方式であることです。よってこれまでのようにベースステーションの設置に苦労することはなくなりました。HMD前面2基、上下左右1基ずつ、合計6基のカメラで周辺環境を撮影しHMDの位置と姿勢を逆算推定します。

レンズもこれまでと同様の形状で一見してわかるフレネルレンズと思われます。ディスプレイも恐らく2枚でしょう(未確認)。また、眉間部の近接センサーも確認できますね。

IPD調整用のねじは健在ですが、HMD前面のスライド機構はなくなりました。

ヘッドバンドはますますPS VRのような構造になってきています。

もう1点あげるとすると、フリップアップ機能が盛り込まれました。(Flipping up the visor)これはなかなか便利な機能なのではと思われます。

尚、Vive Cosmosにはいくつかのラインナップがあって、HMD前面を付け替えることによって変身します。PC向けVRヘッドセット「VIVE Cosmos」…に比較記事がありますので、見てみましょう。

Cosmos EliteでOutside-In方式にも切り替えられるあたりは、トラッキング精度への若干の自信のなさのようなものを感じますが(これまでが良すぎましたからね ! )、HTC ViveとしてInside-Out方式への第一歩を踏み出した機種と言えます。

Oculus Rift

最後にOculusを見ましょう。


VR元年と言われた2016年に向けて、DK1 -> DK2 -> CV1と進化させ、大きな時代の流れをつくった立役者ですが、ここではCV1(Oculus Rift CV1 Teardown)を見て行きましょう。CV1というのはConsumer Version 1ということで、開発者向けのDK2 (Development Kit 2) から一般消費者向けに進化したものになります。

Step 2にあるとおり、HMD上や後頭部でたくさんのLEDが光っています。44個あり、Constellation(星座)と呼ばれています。赤外線LEDなので実際には目に見えませんが、ここではわかりやすいように色がつけられています。このドットをOculus Sensorと言われる赤外線カメラで撮影し、HMDの位置や姿勢を推定します。すなわちOutside-In方式ですね。

Step 6はとてもわかりやすいですが、HMDの左下にスライダーがあって、IPD調整が可能です。

またStep 10からもレンズとディスプレイが一体になった箱が2セットあることが確認でき、ディスプレイは2枚であることがわかります。DK2では1枚ディスプレイ(Gallaxyのディスプレイの流用)でしたので、ここは大きな改善点と言えます。

Step 11の2枚目の写真から、フレネルレンズの縞模様が確認できます。ただしStep 12に示されるような形状で、ディスプレイ側の面がフラットになるようなハイブリッドレンズ構造になっています。

最後に、ヘッドバンドは比較的柔らかい素材のシンプルな構造です。

全体的にシンプルにも見えますが、押さえるところはきっちり押さえ、そしてこだわるべきところは徹底的にこだわった機種で、創業者であるPalmer Luckeyさんの思いが詰まった作品と言えますね。

Oculus Rift S

残念ながらTeardown記事はないのですが、こちらの記事(… 新型VRHMD「Oculus Rift S」分解)に分解写真があります。

まず特筆すべきは、このあと紹介するOculus Questと同日発売かつともにInside-Out方式を採用した機種であること。Rift Sは、前面2基、左右1基ずつ、上面1基の合計5基のカメラで周辺環境を撮影し、HMDの位置や姿勢を逆推定します。

いくつか実験的に採用されたと思われるのが、

  • 1枚ディスプレイ
  • IPD調整はできない(ソフトウェア対応のみ)
  • ヘッドバンドは硬質・HMD吊り下げ型で後頭部のダイヤルで締め付ける

そしてPC接続が前提であること。PCのリソースが当てにできるので、トラッキング精度やグラフィックス処理では有利ですが、接続ケーブルでプレイエリアが制限されたり、アンバランスな感じは否めないですね。

この機種は2021年をもって販売を終了し、以降はPC接続前提型は作らないという発表がありました。(「Oculus Rift S」は2021年に販売終了へ)Facebookの戦略や方向性の岐路に際し、Rift SとQuest両方とも作って民意を聞いてみたと言ったところなのでしょうか。

実はグッディーはもう少し穿った見方をしていて、この機種ってまるでInside-Out方式のPS VRみたいな感じですよね !? つまりある意味PS VR2(仮)を模擬するサンプルになっていて、Questこそが正しい方向性なのだと世に知らしめたようにも、今となっては見えます。

Oculus Quest

そして最後がOculus Questです。ラスボスは最後に出てくるということで。実際Questシリーズの売れ行きはとても良い推移を見せており、機器の構造、価格、時期どれをとっても戦略的にとてもうまく行っていると言えます。

ここではQuest 2(Oculus Quest 2 Teardown)を見て行きましょう。また、「Oculus Quest 分解」で検索すると、わかりやすい分解写真がいくつか出て来ますので、そちらも試してみてください。

QuestシリーズはInside-Out方式の大本命と言えますが、HMD前面の四隅に4基のカメラが搭載され、周辺環境を観測することによりHMDの位置と姿勢を逆推定します。

ざっと基本的な特徴をあげると、

  • レンズは今までとおりのハイブリッド型フレネルレンズ
  • ディスプレイは2枚
  • IPD調整はQuestではHMDの右下にあるスライダーで連続的に調整できたが、Quest 2ではレンズ部を横に動かすことにより3段階に調整可能な形に簡素化された
  • Questではデフォルトのヘッドバンドは若干硬い素材だったが、Quest 2では柔らかいゴムの素材になった

総じて創業者のPalmer Luckeyさんから受け継がれた思想が反映された機種と言えます。尚、QuestとQuest 2の比較はこのあたりの記事(「Oculus Quest 2」は初代モデルからどう変わった?…)を参照されると良いかと思います。

当初はQuestの後継機(当時はQuest Sと言われた)でもRift S同様1枚ディスプレイになりIPD調整もソフトウェア調整だけになるという噂がありました。一方同じころPalmer Luckeyさんは、Rift Sでのメカ的なIPD調整廃止に対して自身のブログ記事(I can’t use Rift S, and neither can you.)で辛口のコメントを書いています。

要は自分はIPDが広い上に目の位置に偏りがあり、IPD調整機構がないととても辛い、だからOculus Goは僕は使えなかった、とIPD調整をシンデレラの靴に例えてその重要性を訴えています。そして4つの代表的なIPD対応の方法をあげ、IPD大中小くらいのラインナップを提供するやり方が一番好きだと語っています。洋服でS/M/Lがあるような感覚ですね。彼らしいコメントだと思いました。

これを受けてか、Quest 2では大中小設定が残ったような形になっており、Facebookもなかなかいいところがあるとグッディーはひとり感心してました。

Ouclusは基本的にすべてのラインナップでHMDが前後に動く機構はなく、当初は眼鏡をかけたまま装着するのは厳しいものがありましたが、眼鏡スペーサーを導入しバイアスすることによってこの問題を回避しています。

Facebookになり、創業者のPalmer Luckeyさんが去り、コストダウンと装着性の向上という商業路線へのシフトは見られるものの、眼鏡スペーサーやヘッドバンドの思想など、レンズやディスプレイ等本当に重要なところにはお金をかけるが、それ以外のところにはなるべく余計なことはしない、というポリシーを依然として強く感じますね。

おわりに

今回は、代表的なVR機器の構造について勉強しました。

押さえるべき機能に対して、コストとのバランスからさまざまなアプローチが取られていることがわかりますね。

また、視力対応(レンズとディスプレイの距離を変える)している機種は、ハイエンドなVR機器では皆無であることにも気づかれたことと思います。

一方スマートフォンを刺すタイプの簡易型VR機器だと、結構多くの機器が視力対応していますので、エレコムのラインナップなどを見てみると参考になるでしょう。

なお冒頭でもお伝えしましたが、2021年以降パンケーキレンズ搭載の薄型VR機器がいくつも出てきていますが、2021年後半から2023年前半に出てきたVR HMDたちMeta Quest 3とApple Vision Pro で紹介していますので、あわせてご覧ください。

次回はAR機器の構造について勉強していきます。お楽しみに !


   
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